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●「LINE」は日本でもすっかりお馴染み〔AFPBB News〕
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2014.03.04(火) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40083
韓国の巨大インターネット企業:ネイバーの野望
(英エコノミスト誌 2014年3月1日号)
韓国最大のポータルサイト「ネイバー(NAVER)」は、自国では
ヤフーを完敗に追い込み、グーグルを寄せ付けない。
そして同サービスを率いるトップは今、メッセージサービスによる世界制覇を計画している。
「
ダウンジャケットには普通、ニワトリではなくアヒルの羽毛が詰められている。
なぜか? 「ネイバーに尋ねてみよう」――。
」
韓国のポータルサイトであるネイバーは2003年に、こんな文面の広告を出した。
当時の同サイトの目玉は、ユーザーの力を借りて回答を得るクラウドソースの手法を用いた、革新的なQ&Aサービスだった。
こうした目を引く特徴はあったものの、ライバルがひしめき合い、米国のヤフーや別の韓国企業ダウムが支配する市場に乗り出した時、ネイバーの勝ち目はあまりないように思われていた。
2013年、ネイバーは100万件目にあたる質問を掲載した。
その内容は、あるユーザーが忍び笑いで始まる歌の題名を尋ねたものだった。
わずか14分後に回答が寄せられた。
正解は、米国人シンガーのケシャが歌う「ブロウ」だ。
■韓国の検索市場で8割のシェア、KOSPIで6番目に大きな企業に
毎日約1800万人がネイバーのホームページを訪れる。
ネイバーは韓国の検索市場のほぼ80%を握り、
これにより韓国は世界でもたった3カ国という、
グーグルが検索分野のトップではない国
の1つとなっている(残り2カ国はロシアと中国)。
グーグルは韓国の検索市場ではわずか4%を占めるにすぎない。
ヤフーは、ポータルサイトの訪問者数で第10位と大きく引き離され、2012年に韓国市場向けに特化したコンテンツの提供を停止した。
ネイバーが開設された当時は、韓国語で書かれたウェブページはそれほど多くなかった。
ゆえに、ネイバーの質問サービスは絶妙な手だった。
他のユーザーの質問に答えたユーザーは、多くのコンテンツを無料で提供してくれた。
ネイバーは「一般人」から「スーパーマン」までの階級をユーザーに与え、書き込みを続けるよう促した。
「誰もがサイバースペースで神になりたがっていた」
と、2007年に出版された書籍『ネイバーの成功の秘訣』の著者、リム・ウォンキ氏は証言する。
欧米のポータルサイトの中には広告収入が落ち込んでいるところもあるが、ネイバーの広告収入は今でも伸び続けている。
サムスン証券のパク・ジェイ氏によると、ネイバーの売り上げの4分の3を占めているオンライン広告収入は、2013年に7.7%の伸びを示した。
パク氏は、今後もこの程度のペースで成長が続くと見ている。
カネがどんどん入ってきていることから、ネイバーはもはやユーザーが提供する無料素材に頼る必要はなく、百科事典から動画まで、多くのコンテンツを独占的に買い占めることができる。
独占提供のため、競合する検索エンジンはこれらのコンテンツへのアクセスを阻止される。
当然のことながら、こうしたやり方はライバルたちを苛立たせている。
2012年には、検索エンジン「エムパス」(既にサービスを停止)を立ち上げたキム・インスン氏が、『ネイバーの2つの顔』という、同社を批判する内容の本を出版した。
キム氏は、ネイバーはユーザーにとっては「天国」だが、コンテンツプロバイダーにとっては「ブラックホール」だと主張する。
一方、ニュース配信社は、ネイバーがわずかな情報使用料しか払わないと不満を述べている。
ネイバーはもともと、韓国最大の産業コングロマリット(チェボル=財閥と呼ばれる複合企業)、サムスンのIT部門による社内ベンチャーとしてスタートした。
しかし、サムスンは2004年に持ち株を完全に手放し、今やネイバーは韓国総合株価指数(KOSPI)で6番目に大きな企業だ。
キム氏は、ネイバーが韓国財閥の最も好ましくない特徴を露呈し始めたと指摘する。
特に、将来的にライバルになりそうな、自社より小規模の企業を買収したり、市場への自らの影響力を行使して、他のポータルサイトのコンテンツへのアクセスを阻むといった行為が挙げられるという。
2013年には、韓国の公正取引委員会がネイバーに対し、不公正な商慣行の疑いで巨額の罰金を科すと警告した。
ネイバー側は同委員会を説得し、小規模なインターネット企業への支援と消費者の権利教育に1000億ウォン(約9400万ドル)を支払うことと引き換えに、この措置を撤回させた。
ネイバーはこれらの批判に対して、ユーザーは今でもポータルサイトを選べると反論する。
2013年11月に韓国人歌手のヌードビデオがネットに出回った際には、ネイバーがビデオを閲覧できないようにしたため、グーグルへの訪問者数が急増した。
ネイバーはまた、自社がモバイル市場では「不利な立場」に立たされていると主張する。
なぜなら、韓国で使われているスマートフォンの90%がグーグルの基本ソフト(0S)「アンドロイド」を搭載しており、アンドロイドでは、グーグルがデフォルト検索エンジンとして提供されているからだ。
それでも、グーグルは韓国のモバイル検索市場のわずか15%を占めるにすぎない。
■国外とモバイル分野への進出
さらに大きな脅威は「カカオトーク」だ。
これはモバイルプラットフォーム兼メッセージアプリケーションで、ネイバーと同様、ゲームや電子書籍、写真ストレージなどのサービスを提供している。
2010年にこのサービスを立ち上げたのは、ネイバーを創業したが、後に同社を去った人物だ。
今では、韓国の人たちがカカオトークに費やす時間はネイバーよりも多い。
カカオトークが韓国国内で成功を収めたことで、ネイバーは国外とモバイルに活路を求めた。
2011年に津波が日本を襲った際に、日本に勤務するネイバー従業員がオフィスに集まり、1カ月半で無料のモバイルメッセージ・電話サービスの「ライン(LINE)」を立ち上げた。
ラインは現在、「アジアのフェイスブック」として宣伝されている。
サービス開始から18カ月間で、ラインのユーザー数は1億人の節目に達した。
フェイスブックとツイッターは、ここに到達するのに4年を要している。
2013年11月、ラインのダウンロード件数は3億回を超え、フェイスブックが190億ドルを払って買収する米国のメッセージサービス「ワッツアップ(WhatsApp)」の有力なライバルとなっている。
パク氏が予測するように、
5年以内にネイバーの売り上げの半分をラインが占めるようになれば、
ネイバーはインターネット関連企業の中では「数少ないグローバルな韓国企業の1つ」になっているはずだ。
しかし、2月20日、フェイスブックがワッツアップの買収を発表すると、ネイバーの株価は急落した。
大手ソーシャルネットワークのフェイスブックの支援を受けたワッツアップに勝つのは不可能だろうとの読みからだ。
2月25日には、日本の大手IT企業のソフトバンクがライン株の一部取得を計画しているとの噂でネイバーの株価は反発したが、同社はこの件については否定している。
ネイバーはこれまでにも巨大海外市場への参入を試みたことがあるが、いずれも散々な結果に終わっている。
■タイや台湾、インドなどに注力
2009年には、「ネイバー・カリフォルニア」と「ネイバー・コリアン=アメリカン」設立計画が打ち上げられたが、どちらも本格的な実施には至らなかった。
ラインにとってもう1つの大きなライバルである「ウィーチャット(微信)」は、中国で最も人気の高いメッセージアプリで、カカオトークと同様、アジア最大のインターネット企業テンセント(騰訊)の支援を受けている。
そのためネイバーは、市場こそ大国より小規模だが、ラインがすでに足掛かりを築いているタイと台湾の2カ国や、インドやメキシコのように、今のところスマートフォンの使用率は低いが今後ブームになりそうな国々に注力している。
2013年に、ネイバーはこれらの国々などで、自社のメッセージアプリの売り込みに2500億ウォンを費やした。
しかし、海外におけるネイバーの本当の強みは、ポータルビジネスで10年間の経験を積み、ゲームからショッピング、オンライン新聞に至るまで「あらゆることを手がけている」点にあると、パク氏は指摘する。
ラインではこれらのサービスがすべて利用可能だが、ワッツアップは、フェイスブックが正式に買収するまでは、主にメッセージをやりとりするサービスと言える。
フェイスブックは今でも広告に大きく依存しているが、ラインは売り上げの70%をゲームと電子「スタンプ」から得ている。
ここで言うスタンプとは、凝ったデザインの特大の絵文字のことで、ウサギの「コニー」やクマの「ブラウン」といったようにそれぞれに名前がつけられ、絵入りのメッセージに添えることができる。
コカ・コーラやサッカークラブのFCバルセロナは、費用を負担し、ラインに自分たちのスタンプを制作してもらっている。
欧米のスマートフォンユーザーが、これらのかわいらしいキャラクターを気に入るかどうかは分からないが、ネイバーは、フェイスブックのオープンなネットワークに警戒感を抱く層を、クローズドなソーシャルネットワーキングサービス「ラインバンド(LINE BAND)」に引き寄せたいと考えている。
■次の10年でナンバーワン目指す
サムスン証券のパク氏は、「長期的には」ラインの評価額がフェイスブックに近づくと予測しているが、今のところ、ラインは規模にしてフェイスブックの約9%と、同社と比べると非常に小さい。
にもかかわらず、2010年にネイバーの創業者の李海珍(イ・ヘジン)氏は、たるんでいると従業員を叱咤し、改めて同社の基本計画を説いた。
それは最初の10年を試行錯誤に費やし、次の10年でナンバーワンに向かって邁進するというものだ。
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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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